マリー・アントワネット〈上〉 (岩波文庫) [歴史(日本史世界史)]

マリー・アントワネット〈上〉 (岩波文庫)



マリー・アントワネット〈上〉 (岩波文庫)
マリー・アントワネット〈上〉 (岩波文庫)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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そんじょそこいらの伝記とはひと味違う、歴史哲学と世界観が詰まりに詰まった傑作

 上下2巻になる文庫は圧巻だった。ここ数ヶ月で読んだ本の中で最もインパクトが強かった。

 この本が書かれたのは1930年と、ちょうどナチスが政権を握る寸前だ。伝記作家として超売れっ子だった作家でユダヤ人のツヴァイクも、その後南米で自殺してしまうという運命をたどる。

 まあ、そんな暗さと不安が漂った伝記だった。

 「一凡人の生涯」と副題にあるとおり、主人公のマリー・アントワネットはとことん無意識過剰の人物だ。そもそもの無頓着で歴史に流されてはては断頭台の露と消える、あまりにも有名な悲劇的物語だ。その辺の、人間の意志を逸脱した力が人間の運命を決定づけるといった有様は非常に暗く、1930年という暗さとか脱力感がなんとも言えず漂っていて、当時のユダヤ人たちが抱えていた問題意識が浮き彫りになっている。

 同世代のユダヤ人作家にカフカがいるが、朝起きたら自分が虫になっていてなにもしていないのに親に殺されてしまったり、また審判と称して意味不明の中連行されて犬のように殺されてしまう物語は、無意識のうちに人生が規定されるといった、ツヴァイクの描くマリー・アントワネット像に近いものがある。

 ツヴァイクは、序文やあとがきに素晴らしい文を残すことで有名であるが、この本はとくに、あとがきを面白く読ませてもらった。普通ならば「参考図書」などが羅列されたりするものだが、その反対で「どの文書を使わなかったか」である。おびただしい数の贋作書簡がマリー・アントワネットを取り巻いていて、そもそも筆無精な彼女がそんなに手紙を書くわけもなく、それで怪しげな書簡はすべて排除したといういきさつが、ツヴァイクの手で書かれている。

 そんじょそこいらの伝記とはひと味違う、歴史哲学と世界観が詰まりに詰まった傑作であった。

格調ある翻訳の極北

 「格調」とはこのような翻訳に対して用意された言葉であろう。
 ツヴァイクの手になる本書の内容はもちろん、このような格調ある文体を味わうことができるのは、翻訳によって本書を知るしかない日本人の、かえって幸福であると言えようか。
「普通の女の子」

上巻は、フランスに嫁いでゆくところからフランス革命に至る部分で、変化に富んでおり、マリー・アントワネット自身も徐々に変わってゆきます。とは言うものの、この本の副題にもなっている「一平凡人の面影」と言う通り、作者は「普通の女の子」としてのマリー・アントワネットを描いて行きます。

14歳で結婚しながら、ルイ16世との間に7年間実質的な結婚生活がなかったことが、不幸の始まりでした。14歳の少女にとって、結婚という実体がない時代は、「私は退屈するのがこわい。」という感想通りの生活で、金を湯水のように使い遊びまくる生活でした。
その後子供が出来、徐々に大人としてのマリー・アントワネットに変わってゆきますが、そこで起こった事件が「首飾り事件」で、これがきっかけとなって、フランス革命にまで進んでゆくのですが、すべてが後手後手に回ってしまい、少女時代の悪いイメージがずっと付き纏ってゆきます。
作者は、そのあたりを非常にマリー・アントワネットに好意的な文章で描いて行きます。

この岩波版の本は、訳が古いこともあるのですが、ちょっと読みにくい本になっています。でも、古典と言えるような本で、じっくり読むとなかなか味のある文章になっています。
マリーアントワネットを知る基本の書。

あのベルばらの作者、池田理代子さんも、マリーアントワネットの小説を書いた遠藤周作さんもこの本を参考にしたようです。
マリー アントワネットを深く知るための基本の書といってもいいと思います。マリー アントワネットの書は他にも色々ありますが、この本は彼女に対して好意的なまなざしを持って書かれています。
訳は古臭いですが、そこがかえって新鮮だったりします。
ツワイクがいいのか訳者がいいのかはわかりませんが、まじめな文体の中にもユーモアが感じられ、スラスラと読み進む事が出来ます。
そして、私はこの本をもう数年間、持っているのですが、いまだにパラパラと読み返したりしています。前半はマリーアントワネットが幸せな時代が描かれています。彼女の呑気さには笑ってしまう程です。親であるマリア テレジアが何も考えない娘に頭を悩ませている様子などは、第三者からみると、なんだか笑えてしまえます。とにかく前半は明るい内容です。
シュテファン・ツヴァイクの功罪

良くも悪くも日本人にとっての「マリー・アントワネット像」を作り上げた名作。ただこの岩波版の訳は古色蒼然。関楠生訳の河出文庫版のほうが良いと思う。内容に関しても、マリー・アントワネットとルイ16世の性格の分析等、ツヴァイクの執筆当時(1932年)は説得力を持っていたであろうフロイト的精神分析に依拠するあまり多くのものを見失っているような気が。現代ではむしろ幼年期の生育歴に諸事情の原因を見出すべきと思いますが。また一貫して彼女を同じオーストリア人として身びいきに描いている点、後半のフェルゼンがらみのまるでヴァグナーの「トリスタンとイゾルデ」めいた展開は、ユダヤ系だったツヴァイク本人のナチスドイツからの亡命、自殺という晩年の不幸を思うと複雑。



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